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福岡高等裁判所 昭和38年(ラ)180号 決定 1963年12月16日

抗告人 吉田六男 外四名

相手方 中尾松太郎

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

理由

抗告代理人の抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。抗告人等が本件仮処分申請の疏明方法として提出した家屋明渡調書五通及び福岡地方裁判所飯塚支部昭和三八年(ヲ)第三三四号執行方法に関する異議事件の決定によれば、相手方は福岡地方裁判所飯塚支部昭和三二年(ワ)第一一〇号建物収去、土地明渡損害金請求事件の確定判決に基き昭和三十八年十月四日福岡地方裁判所々属執行吏梅丸守に委任して抗告人等に対し飯塚市大字飯塚千百五十九番地の三地上の建物の内抗告人等の各占有部分につき退去の強制執行をなしたが、右は執行すべき判決を抗告人等に送達することなくなされたものであることが認められ、したがつて右強制執行に瑕疵の存することは明らかである。

しかしながら前記決定書並びに、抗告人等が疏明方法として援用する前記福岡地方裁判所飯塚支部昭和三二年(ワ)第一一〇号家屋収去土地明渡損害金請求事件の記録及び判決によれば、次の事実が認められる。すなわち相手方は昭和三二年九月二十七日三興木材株式会社を被告として本件家屋収去、土地明渡等を求める訴を提起したが、これに先立ち同年二月五日前記会社を債務者として本件家屋収去、土地明渡請求権保全のため仮処分を申請し、その控訴審である福岡高等裁判所において、同年五月十四日「三興木材株式会社の前記土地建物に対する占有を解き相手方の委任する執行吏にその保管を命ずる。同会社は右土地建物の占有を他人に移転し又は占有名義を変更してはならない。」及びその他の事項を内容とする仮処分命令がなされ、相手方の委任にかかる執行吏は同月十七日右仮処分の執行をなし、本件家屋を執行吏の占有保管に移すとともに、公示札により仮処分の執行を公示した。しかして本件強制執行当時抗告人等が本件家屋につき各占有している部分は、いずれも右仮処分の執行後に抗告人等が前記会社より夫々賃借してその占有を開始したものであり、又前記本案訴訟は昭和三十八年三月一日相手方勝訴の判決が確定し、相手方は右確定判決につき抗告人等に対する執行文の付与を受けた上本件強制執行に及んだものである。

以上の事実によると、抗告人等の本件家屋についての賃借占有は前記仮処分に反してなされたものであるから、これをもつて相手方に対抗することができない。したがつて抗告人等は前記訴訟の当事者にはなつていないけれども、当事者である前記会社の承継人として右訴訟の確定判決に基き退去の強制執行を受ける適格を有するものである。そしてこのように確定判決に基き退去の強制執行を受ける関係に在る者が強制執行によりその占有を失つた場合には、たとい該執行に瑕疵が存していても、相手方から占有を奪われたということはできないから、かかる場合には右占有を回収する権利は生じないものと解すべきである。

しからば抗告人等の本件仮処分申請は結局被保全権利の疏明がないことに帰するので、右申請を理由がないとして却下した原決定は正当であつて、本件抗告は理由がない。

よつて本件抗告はこれを棄却することとし、民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判官 池畑祐治 秦亘 佐藤秀)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消す。

申請人の委任する福岡地方裁判所執行吏は、別紙添附物件目録第二記載の家屋中、第三記載の申請人等の占有部分に対する、相手方中尾松太郎の占有を解き、右部分を申請人等に返還すべし。

抗告費用は全部相手方の負担とす。

以上の仮処分決定相成度。

事実及理由

第一、事実関係につき

一、本件の事実関係は抗告人が原審裁判所に提出した仮処分申請書中第二の事実関係一及び二に記載の通りでありますから、これを本抗告状に援用します。

二、即ち、相手方は、福岡地方裁判所飯塚支部昭和三二年(ワ)第一一〇号建物収去、土地明渡損害金請求事件(原告相手方被告三興木材株式会社間)の判決正本が

(1)  抗告人吉田六男外四名に全然送達なく

(2)  従つて、右の送達証明書もなくして

(3)  名義を強制執行なりとして、昭和三八年一〇月四日相手方及び執行吏梅丸守並に相手方代理人日野太作の三者が通謀の上、脅迫的態度を以つて、抗告人等が家賃の滞納もなく平穏且公然善意無過失を以つて占有しておる申請の趣旨記載の図面中(9) (1) (10)(21)(22)の部分の占有を侵奪したのである。

(4)  右侵奪は、侵奪日たる一〇月四日より今日迄継続しておるのである。

(5)  依つて、抗告人等は、その占有の回収を求むるため、原裁判所に対し仮処分の申請をしたのであります。

三、然るに原裁判所に於ては

(1)  疏明第二号証の決定理由の如く、「相手方のなしたる強制執行は違法且無効である」と決定され

(2)  又、原決定に於ても、「前略右は執行すべき判決を申請人等に対し送達することなくされたるものであつて違法且無効であつたことが認められる従つて被申請人は申請人等の占有を侵奪したもの」と云うべきである。

四、以上の如く、相手方が抗告人等の占有を侵奪したことを認め乍ら、「抗告人等には占有回収訴権の発生はないものと解するを相当とする云々」の理由により、抗告人等の申請を排斥された。

五、然れども、右は

(1)  法を誤解し

(2)  多数の判例に違反した決定である。

六、何となれば

(イ) 法の誤解につき

(1)  前記福岡地方裁判所飯塚支部昭和三二年(ワ)第一一〇号建物収去等事件の当事者は相手方中尾松太郎と抗告外三興木材株式会社間の訴訟であつて、抗告人等は訴訟当事者ではない。

(2)  判決は主文に表示されたるものに限り、効力あることは民事訴訟法の大原則である。

(3)  若し、相手方等が抗告人等に対し判決の効力を及ぼさんと、欲せば何故に右事件の裁判所で口頭弁論中

A 民事訴訟法第七三条、七四条、により参加等の申立を抗告人等になさなかつたのか

B 又同法第七六条により、訴訟告知の手続を何故に抗告人等に取らなかつたのか

(4)  右の手続を全然とらずして、「抗告人等に前記判決の効力が及ぶとなす」原決定には抗告人等は到底承服することは出来ない。

(5)  現行の法制は、民主主義の政治下に於る法律制度である。果して然らば、前述の如く前記「飯塚支部昭和三二年(ワ)第一一〇号判決正本が抗告人等に全然送達なく」抗告人等は相手方と訴外三興木材株式会社間に如何なる裁判がありその結果がどうなつたかを全然知らない時に突然、昭和三八年一〇月四日「相手方より名を強制執行として即時明渡の強制処分を受けるが如きことを許す」は、果して現行民事訴訟の精神であろうか此の点を深く御留意賜わり度願上げます。

原決定には以上一乃至六記載の如き不法があるので、その破棄は免れざるものと信じます。

(ロ) 判例違反につき

(1)  民法二〇〇条の占有回収の訴権は少くとも占有を侵奪されたものには右訴権を与えることを定め、私人間に於ける権利関係につき公平を重んじ且私法上の権利関係につき権利者と称するものの「自力救済を禁止した」強行法規であることは明らかである。

(2)  而して、抗告人が本件仮処分申請書に記載した

東京地方裁判所昭和一〇年(レ)第七九三号

大審院大正八年(ウ)第二〇八号

大審院大正九年(オ)第六〇八号

同 院大正十二年(オ)第九四一号

東京高等裁判所昭和二七年(ツ)第一四号

(3)  等の各種判決は現在有効なる判決であつて、下級裁判所を拘束するの力ある判決である。

(4)  殊に、東京地方裁判所昭和一〇年(レ)第七九三号判決には「裁判所又は執行吏の職務行為により占有の移転を受けた場合に於ても法律上正当な事由に基かない時は占有を侵奪したものと云うべきである」と判旨されておる。

(5)  此の判例によれば、原審に於ては明らかに相手方の不法侵奪を認め乍ら、抗告人の仮処分申請を却下されたのである。

七、以上如何なる方面より見るも、原決定は不当なるにより即ち抗告人等は占有回収の訴権を有するにより本件抗告に及びます。

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